札医大の研究室から(13) 齋藤豪教授に聞く(十勝毎日新聞?札幌医科大学 包括連携協定事業)
女性が子供を産むために欠かせない子宮。子宮入り口の頸部(けいぶ)にがんができる子宮頸がんの場合、以前は子宮の全摘出や放射線治療で妊娠や出産ができなくなることが多かったが、近年は子宮体部を残す「妊孕(にんよう)性温存療法」が有効な治療方法として注目を集めている。10年ほど前から同治療法を手掛け、研究を続ける産婦人科学講座の齋藤豪(つよし)教授に聞いた。(聞き手?浅利圭一郎)
齋藤豪(さいとう?つよし)
1961年釧路管内標茶町生まれ。86年札幌医科大学医学部医学科卒業。90年同大大学院医学研究科修了。95年世界保健機関?国際癌研究所(フランス?リヨン)研究員。98年札幌医科大学医学部産婦人科学講座講師を経て、2004年から現職。
札医大の研究室から(13) 齋藤豪教授に聞く 2017/10/13
浅利 子宮頸がんの「妊孕性(にんようせい)温存療法」とはどんなものか。
齋藤 トラケレクトミー(広汎性子宮頸部摘出術)と呼ばれるもので、がんのある頸部を摘出した後、子宮体部と腟を縫合する。子宮体部を残すことで、手術後も妊娠や出産が可能になる。
これまでは、ごく早期のもの以外は(子宮の)全摘手術か放射線治療を行うため、妊娠と出産を諦めなければならないケースが多かったが、この手術法によってそれらができるようになる人も増えている。
浅利 妊娠や出産が可能なこと以外のメリットは。
齋藤 子宮頸がんは、近年若い世代の人に増えている。同時に初産年齢も上がっており、妊娠や出産を経験する前にがんになる人が増えているという現状がある。
子宮を残すことで、すぐに妊娠や出産の予定がない人でも希望を持つことができる。命を救えれば良いという時代ではなく、女性の尊厳を保てるという心理面でのメリットが大きい。
浅利 現在、道内や札医大での手術はどのくらい行われているのか。
齋藤 札医大では、国内で慶應大学病院(東京)に次ぐ手術実績があり、この10年間で100人以上の人がこの方法で手術を受けている。道内ではほかにまだ数例だが、学会や研究会を通じて治療成績や治療法の情報を共有するように努めている。
浅利 子宮がんの現状と予防について。
齋藤 (子宮がんは)およそ10万人に10人の割合で発生しており、決して珍しい病気ではない。治療法や予後は、この20年間でも、大きく分けて手術と放射線治療、抗がん剤の3つで変わっておらず、治療もさることながら早期発見の重要性はいうまでもない。がんの検診受診率は、欧米諸外国では70~80%であるのに比べて日本は30~40%ほどで、北海道ではさらに低い。がんを治すことも大切だが、検診を受けることや、いま見送られているワクチン接種の再開も課題だ。
浅利 十勝の住民に向けて。
齋藤 がん検診は対がん協会や厚生連などによって、どの地域でも受けられるよう確立されているので、うまく利用してほしい。身近な地域に産婦人科が少ないという現状はあるが、北大や旭川医大などと協力して診療体制の維持も手掛けている。
がんになったとしても早い段階で治療ができるように、何か症状があればためらわず早期に受診してもらえればと思う。