札医大の研究室から(38) 中村眞理子教授に聞く(十勝毎日新聞?札幌医科大学 包括連携協定事業)

十勝毎日新聞ロゴ
 身体や精神に障害がある人や、障害が予想される人に行われる作業療法。中でも、人間の生活で重要な役割を果たす手指のリハビリについて、その内容や周りの人の関わり方などを札幌医科大学保健医療学部作業療法学科の中村眞理子教授に聞いた。(聞き手?安藤有紀)

中村眞理子(なかむら?まりこ)

 1964年札幌市出身。札幌医科大学衛生短期大学部作業療法学科卒、東北大学大学院医学系研究科修了。札幌医科大学医学博士。同大学付属病院リハビリテーション部、同大保健医療学部作業療法学科講師など経て、2002年同学科助教授、08年准教授、11年より現職。

札医大の研究室から(38) 中村眞理子教授に聞く 2019/11/29

安藤:作業療法とは。
中村:一言でいうと「こころとからだのリハビリ」。作業活動を用いることが大きな特徴で、その人らしい生活の獲得が目標となる。作業活動というと、手工芸やレクリエーション活動をイメージする人が多いが、作業療法での作業活動は食事や更衣(着替え)など身の回りのこと、仕事の領域、余暇?遊びの領域など人間に関わるすべての活動を指す。

 豊かさのために。

中村:意味のある作業ができなくなれば、その人は仕事や生活の豊かさを失ってしまう。作業療法士は、その方がなぜできないのか、どの機能が残っていて何ができるのか、どうすればできるのかなどを評価する中で課題を見つけ出し、トレーニング方法を一緒に考え実践していく。

安藤:手指のまひがある程度回復しても、生活で不自由な場面も多い。
中村:手指の機能はヒトの生活に欠かせない。動作をするほか、身ぶり手ぶりなどコミュニケーション手段にもなり、水をすくうなど道具にもなる。単に指の曲げ伸ばしができる、握力が何キロあればいいという観点でなく、さまざまな状況に対応できることが「生活する手」には不可欠となる。

 握力だけでは不足。

中村:日常生活の道具操作で手指を用いるとき、最大限の筋力を使うことは少なく、対象物の素材や重さ、接触面の形状などに応じた調整能力が求められる。例えば、水の入った紙コップを持とうとする場合、紙コップの大きさに合った手の開き方で腕を伸ばし、紙コップをつぶさないように力を調節しなければならない。そのためには運動機能、表在感覚、深部感覚、視覚などが複雑に関与する。「生活する手」を実現するリハビリでは、把持力(はじりょく)や調整力を客観的に評価して介入していくことが重要となる。

安藤:本人や周りの人にできることは。
中村:本人の意欲が何よりも大事。周囲の人は本人ができることにも手を出してしまいがちだが、できるだけ自分で身の回りのことを行うよう心掛けてほしい。日常生活で身の回りのことをするのに必要な握力は8~10キロ程度、片手が不自由でも8割程度の動作は可能とされ、「手は第二の脳」ともいわれる。積極的に手を使って生活してもらいたい。

安藤:十勝の住民に一言。
中村:全国で少子高齢化が進み、医療?福祉の体制に課題が生じている地域も少なくない。地域住民が支え合う体制をつくることが求められる中、作業療法士の「暮らしを支える視点」が生かされることを期待している。

発行日:

情報発信元
  • 経営企画課企画広報係