【研究成果】医学部消化器内科学講座:新型コロナウィルス感染症(COVID-19)重症患者に生じる腸管内免疫機構の異常を解明

仲瀬教授
医学部消化器内科学講座 仲瀬裕志教授
横山医師
医学部消化器内科学講座 横山佳浩医師
 <研究の概要>
 札幌医科大学消化器内科学講座 診療医 横山佳浩と教授 仲瀬裕志の研究グループでは新型コロナウィルス感染症(COVID-19)重症患者の消化管におけるトリプトファン代謝障害を明らかにしました。本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構 免疫アレルギー疾患実用化研究事業(AMED)の支援を受けて札幌医科大学附属病院で行われた観察研究(JP19ek0410057)で、その成果は2022年8月10日付で国際科学雑誌Frontiers in Medicineにオンライン掲載されました。

Yoshihiro Yokoyama, Tomoko Ichiki, Tsukasa Yamakawa, Yoshihisa Tsuji, Koji Kuronuma, Satoshi Takahashi, Eichi Narimatsu, Hiroshi Nakase
Impaired tryptophan metabolism in the gastrointestinal tract of patients with critical coronavirus disease 2019.
(重症COVID-19患者の消化管におけるトリプトファン代謝障害)
Front Med 10 August 2022; 9: 941422. DOI: 10.3389/fmed.2022.941422.

<研究のポイント>

 本研究では札幌医科大学附属病院で治療を受けたCOVID-19患者さんの血液サンプル、便サンプル、および下部消化管内視鏡検査の際に採取した腸管組織を用いて、COVID-19の重症化に寄与する因子を同定するため、血清中の炎症性サイトカインや血栓?血管内皮マーカーの測定、便中カルプロテクチン、マイクロバイオーム解析、およびメタボローム解析を行い、重症群と非重症群で比較検討を行いました。血液ではインターロイキン(IL)-6が重症例での炎症マーカーでした。また重症のCOVID-19患者では、腸管の炎症マーカーである便中カルプロテクチンが高値でした。同時に便中の代謝物質解析では、人の健康維持にとって重要なトリプトファンの代謝産物であるインドール-3-プロピオン酸の著明な減少がみられました。さらに、重症COVID-19患者腸管組織の解析結果から、小腸においてトリプトファン代謝に重要な役割を果たすアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)、芳香族炭化水素受容体(AhR)、カスパーゼリクルートドメイン9(CARD9)などの遺伝子発現が著明に低下していることが確認されました。以上の結果から、重症COVID-19において腸管内トリプトファン代謝障害が生じることが示唆されました。
図:本研究で明らかとなったCOVID-19重症患者に生じる腸管内免疫機構の異常
図:本研究で明らかとなったCOVID-19重症患者に生じる腸管内免疫機構の異常
 【用語の解説】
トリプトファン:ヒトの体内では十分量合成ができない必須アミノ酸の一つです。消化管においては腸内細菌と相互作用し、腸内環境を整える作用があります。
アンギオテンシン変換酵素2(ACE2):ヒトの細胞にある膜タンパクで心臓や腎臓では血圧や電解質の調整を担っているタンパクですが、小腸においてはトリプトファンなどのアミノ酸吸収を制御する役割を担っています。また、新型コロナウィルスの侵入経路としても知られています。
芳香族炭化水素受容体(AhR):トリプトファンの代謝産物と結合することで、腸管の免疫機能を維持する働きがあります。またACE2の発現を制御する働きも知られています。
カスパーゼリクルートドメイン9(CARD9):細胞内のシグナル伝達に関わるタンパクで、腸管においてはトリプトファン代謝を制御する働きが知られています。

<研究の背景、実施期間など>
 新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は、未だに世界的なパンデミックを引き起こしている感染症です。しかしながら、COVID-19重症化のメカニズムは明らかとなっておりません。また、COVID-19患者さんは下痢、悪心?嘔吐、食欲不振、腹痛などの消化器症状を起こし得ることが知られています。本研究はCOVID-19患者の重症化メカニズムを消化管障害の点から明らかにするために計画されました。本研究は2020年6月から11月までに当院で入院治療を行った患者さんを対象として実施されました。

<今後への期待、今後の展開など>
 私たちの研究データは、今後COVID-19重症化メカニズムのさらなる解明や治療?予防法への応用に貢献することが期待されます。
 本研究は消化器内科学講座だけではなく、総合診療医学講座、高度救命救急センター、感染制御部、呼吸器?アレルギー内科学講座、および附属病院の検査技師や看護師など多くの方のご協力を頂いております。本研究にご協力頂きました皆様に感謝申し上げます。

発行日:

情報発信元
  • 医学部消化器内科学講座