平成31年度札幌医科大学入学式 式辞
平成31年度 札幌医科大学入学式?大学院入学式 式辞
本日ここに、平成31年度札幌医科大学医学部及び保健医療学部、並びに大学院医学研究科及び保健医療学研究科及び助産学専攻科の入学式を挙行するに当たり、大学を代表して式辞を申し上げます。
本日の入学式に、御多忙のところ御臨席いただきました北海道副知事 辻 泰弘様、北海道医師会長 長瀬 清様、札幌医科大学後援会長 東出 俊之様をはじめ、多くの御来賓の皆様に厚く御礼申し上げます。
さて、この度札幌医科大学へ入学された皆さん、大学をあげて皆さんの入学をお祝いし歓迎したいと思います。
札幌医科大学は、北海道が昭和25年、1950年に創設した大学です。本日、御臨席いただいている辻副知事をはじめ多くの北海道の関係者の御理解と強い御支援により、現在、新しい大学施設の一部整備が完成し、残りも今後2年間で整備されます。また、附属病院は増築西棟が既に完成し本年度から既存棟の改修工事が本格的にスタートします。本学が道民の皆様の御支援により成り立っていることを、十分理解しなければなりません。
さて、本学は平成19年の法人化以来、「進取の精神と自由闊達な気風」と「医学?医療の攻究と地域医療への貢献」という二つの建学の精神を基に、「最高レベルの医科大学を目指す」という理念を掲げて歩んできています。
その成果の一つが、昨年末、本学の研究者チームが世界で初めて、脊髄損傷に対する神経再生治療薬を開発したことです。本学で行われてきた基礎研究が画期的な成果をもたらしたことは、建学の精神を象徴する内外に誇るべきものであります。この神経再生治療は、まもなく本学附属病院で実施予定であります。
このように、これまで本学は基礎研究を重視してきましたが、その証左の一つとして、医学部では他大学に先駆けて14年も前からMD-PhDプログラムという基礎研究を奨励するカリキュラムを設けています。
医学部、保健医療学部の新入生の皆さんには是非、将来、基礎研究、臨床研究に積極的に参加するために必要な基礎固めを、この4年間あるいは6年間で是非行ってください。
また、両学部の大学院入学の皆さんには、大学院在籍中、さらにその後も、基礎研究を行う中心人物としての役割を積極的に果たして欲しいと思います。このようなことがなければ、大学の土台が一層盤石になることはありません。
このように、研究にも臨床にも強い屋台骨を持ちながら、もう一つの建学の精神である「地域医療への貢献」については、本学はこれまで、北海道を中心に、日本あるいは世界で活躍する、最先端の医学と医療を担う優秀な8,000人にも及び卒業生を輩出してきました。
北海道の地域医療の支援という点に関しては、常勤、非常勤を合わせ年間延べ2,000人以上に及ぶ医師に地域医療機関での診療支援を行ってもらっています。また、看護師?保健師?助産師、理学療法士?作業療法士による最新の看護?医療技術の教育支援、情報提供など、このような形での後押しも行ってきています。それでも地域によっては、医師はもとより他の医療従事者の数もまだまだ十分とはいえない状況があります。
そのため、本学では例えば医学部では、入学試験制度などを改善し、北海道の地域医療に臨床研究あるいは基礎研究の成果を積極的に還元してくれる人材の確保に努めています。
皆さんの多くは、このような大学の思いに賛同し、そしてそのことを確約して入学してきているはずです。
保健医療学部に入学した学生の皆さんも含め、北海道の医療に積極的に参加してくれることを願っています。
しかし、このことは単に皆さんの医療への視点を地域医療のみに限定させることを意味するわけではありません。
医療人としての成長の過程で一時期北海道を離れることはあるかもしれません。しかし、そこで得られた成果を本学あるいは北海道の医療のために役立たせることは、長期的視野に立ってみれば非常に重要なことであります。世界に広がる視野を持って本学での臨床および研究、そして北海道の医療を見ることは、これら全ての質を向上させるために不可欠です。
そのため、大学では現在国際交流を行っている地域及び大学の対象を拡充し、より多くの学生、大学院生、教員が参加できる計画を立て、その一部は既に実行に移されています。皆さんには、この国際交流の拡大における主人公に是非となってもらいたいと思います。
ここで、医療人としての関門の1つである国家試験について述べたいと思います。
昨年の医師国家試験の合格率は98%と良好な成績で、その前の2年間の状況から大きく改善しました。
看護師、保健師、助産師、理学療法士、作業療法士の国家試験の合格率も100%であり、特に看護師の合格率100%は16年間連続であります。全国的にも他に例を見ない好成績です。
受験者の努力は言わずもがなですが、医学部長、保健医療学部長を始め全ての教員のサポート、また大学後援会からの支援が、この良好な成績に結び付いたと理解しています。
学部における教育の成果が国家試験の合格率のみで測られるわけではありませんが、一つの目標値であることは間違いありません。意識する、しないにかかわらずこのことは皆さんの将来の進路に関わることですので無視はできません。日頃の実践の積み重ね、医療人になるというモチベーションの維持、ここではこの二つが重要であることを強調しておきたいと思います。
最後に、新入生の皆さんと大学院研究科および助産学専攻科へ入学された皆さん、それぞれの皆さんに学長としての激励のメッセージを送り、私の式辞を閉じたいと思います。
学部の入学生の皆さんには2つのことを強調したいと思います。1つは皆さんが現在持っている高い「偏差値学力」を、別な形での高度な実力に変化させること、そして、2つ目は英語力を向上させること、です。
まず1点目についてです。これから通用する実力を養う方法の1つは、良質な本を数多く読むことです。これは将来間違いなく皆さんの洞察力、思考力、批判力を磨くのみならず、日本語能力、すなわち読解力、文章力、会話力を強化します。読み始めは理解が困難なレベルの本であっても、あえて挑戦することが読解力の向上には必要です。以上の努力は英語力の向上にも通じます。日本語の力が十分身に付いていなければ、英語力も十分には向上しません。
2点目です。英語力の重要性は強調しても強調しすぎることはありません。昨年も同じことを話しました。入学時点での英語力が最も高く大学の4年間、6年間で次第に低下し、卒業時にはこれまでで最低になる、そういった悲惨な状況に決してならないようにしてください。
このことは、大学院研究科に入学された皆さんにも共通します。皆さんの研究成果を海外の学会で発表するたびに、あるいは英語論文を書くたびに、その都度英語の重要性を理解するなどという極めて恥ずかしい状況に陥らないことを切に希望します。このような轍を踏まないようにお願いします。
医学部、保健医療学部に入学された皆さん。
医療人としての資質あるいは適性は、あるとすれば何でしょうか?立場上、このような質問をよく受けます。人によって答えは違うかもしれませんが、私の答えは至って簡単です。
それは、「健全な常識を持った人」であることです。特別な才能はあるに越したことはありませんが、それがなくとも医療人としては何の問題もありません。それよりも、健全な常識を持つことの方が大切です。そのために、年代を問わず多くの人とコミュニケーションを取り、多くの本を読んでください。そして、物の見方に多様性があること、すなわち、自分とは異なる世界観を持っている人がいることを知ってください。皆さんの優れた能力をもってすれば極めて簡単なことです。
大学院研究科に入学された皆さん。再三述べてきたように、本学の建学の精神の1つが「医学?医療の攻究と地域医療の貢献」です。この言葉の順番には非常に大きな意味があります。それは、単に地域医療を維持するというのではなく、本学に正に求められているのは最新の研究であり、そしてその成果を逐次地域に還元し、それを基に地域医療に貢献することであります。これこそが、決して忘れてはならない点であると、私自身は思っています。
大学の基礎研究、臨床研究の成果の多くの部分が、皆さんの実績にかかっています。昨今、基礎研究に参加する若手医療者の数が減少していることが危惧されています。本学も安閑としてはいられません。その意味で皆さんのこれからの歩みは大学にとっても大きな意味を持ちます。
助産学専攻科に入学された皆さん。道内の産科医の数は残念ながら増加傾向にはありません。また出産を積極的に受け入れてくれる施設も着実に減少しています。この状況で、助産師が果たさなければならない役割は、以前と比べると格段に大きくなっています。その期待に是非応えていただきたいと思います。
札幌医科大学の発展は皆さんが主役とならなければ実現しません。そのためには、皆さんの優れた資質を十分に発揮し、特に学部新入生の皆さんにおいては、健全な常識を持つ医療人になる基礎を在学中に固めてもらいたいと思います。
札幌医科大学が医学の知恵と知識の殿堂、すなわち医の知の殿堂となることに皆さんの力を貸してください。
全ての皆さんの洋々たる前途を願って、式辞と致します。
平成31年4月5日
札幌医科大学 学長
塚本 泰司
札幌医科大学 学長
塚本 泰司