研究紹介
腫瘍
札幌医科大学医学部泌尿器科では、以前より泌尿器がんに関する基礎研究、臨床研究を積極的に行っており、国内外から高い評価を受けています。現在進行中の研究内容をご紹介します。
- 基礎研究
- 前立腺がんにおけるがん幹細胞の同定とその解析
- 前立腺がんにおけるMETを標的とした新規治療開発の基礎研究
- 膀胱がんにおけるがん幹細胞の同定とその解析
- 膀胱がんにおける化学療法耐性に関わる遺伝子の解析
- 膀胱がんにおけるmicroRNAの発現とゲノム構造異常の研究
- 微小乳頭型膀胱がんにおける遺伝子プロファイルの解析
- 腎がんおよび尿路上皮がんに対する新規がんワクチン療法の開発
- トランスレーショナル?リサーチ(橋渡し研究)
- 泌尿器がん患者におけるリンパ球のプロファイルおよび機能解析
- 各種泌尿器がん(腎がん、膀胱がん、腎盂?尿管がん、前立腺がん、精巣がんなど)におけるがん抗原および新規バイオマーカーの探索
- 各種泌尿器がん(腎がん、膀胱がん、腎盂?尿管がん、前立腺がん、精巣がんなど)に対するがん免疫療法の樹立に関する研究
- 臨床研究
- 前立腺全摘除術時の神経温存アルゴリズムに対する3T MRI追加の意義
- 前立腺全摘除術を受けた患者における生活の質(QOL)研究
- 前立腺がんに対する去勢単独治療後のPSA再燃における抗アンドロゲン薬追加療法の有用性(多施設研究)
- 去勢抵抗性前立腺がんに対する至適逐次療法の検討
- 去勢抵抗性前立腺がんに対するドセタキセル療法の有効性と安全性(SUOC多施設研究)
- 早期前立腺がん根治術後のPSA再発に対する放射線照射と内分泌治療に関するランダム化比較試験(JCOG0401、多施設共同研究)
- 早期前立腺がんに対するPSA監視療法:国際共同比較研究(多施設共同研究)
- アンドロゲン遮断療法中の前立腺がん患者における骨代謝研究
- 進行腎がんに対する分子標的療法(SUOC多施設研究)
- 腎がん骨転移の予後規定因子解析
- 腎悪性腫瘍手術による腎機能への影響の解析
- 進行性腎細胞がん患者に対する分子標的治療の有害事象?有効性と相関する遺伝子多型の探索(多施設共同研究)
- 腎盂?尿管がんにおける尿中UBC測定値の腫瘍マーカーとしての有用性
- 腎盂?尿管がんに対する腎尿管全摘除術後の膀胱内再発予防法の開発
- 再発筋層非浸潤性膀胱がんに対するサバイビンペプチドワクチン予防療法(臨床第II相試験、多施設研究)
- 膀胱がんに対する腹腔鏡下拡大リンパ節郭清術の標準化と臨床的有用性
- 膀胱全摘除術の合併症解析(SUOC多施設研究)
- 膀胱全摘除術後の術後回復強化プログラム
- リンパ節転移陽性尿路上皮がんに対する術後補助化学療法の開発
- ゲムシタビン/シスプラチン療法における制吐療法の解析(SUOC多施設研究)
- T1 high grade膀胱癌のsecond TURBT後T0患者に対するBCG投与と無治療経過観察のランダム化第Ⅲ相比較試験(JCOG1019、多施設共同研究)
- 胚細胞腫瘍に対するブレオマイシン/エトポシド/シスプラチン療法における新規制吐療法の有用性(SUOC多施設研究)
- 難治性精巣腫瘍に対する新規二次?三次化学療法
感染症
感染症チームは、熊本名誉教授の代から脈々と尿路性器感染症の研究を続けてきており、その成果は国内外で評価されています。ぜひ、塚本名誉教授の代に掲載された論文を参照して下さい。感染症チームの高い活動性を理解していただけるものと確信します(性感染症関係業績、尿路感染症他関係業績)。
基礎研究としては、札幌医科大学医学部医化学講座の黒木由夫教授の御指導をいただき、尿路での、サーファクタント構成成分であるコレクチンの発現?感染防御機構について研究を進めています。既に、栗村雄一郎 (J Biol Chem 2012, 287; 39578-39588) が結果を論文にしており、現在、橋本次朗が、日夜、研究を行っています。尿路での自然免疫制御機構は、詳細が明らかになっていない部分が多いことから、オリジナリティーの高い研究となっています。
臨床研究としては、性感染症では、尿道炎の診断?治療に関する新知見を継続的に研究しています。過去にデータがなかった、尿道炎に対するLVFX 500mg/日 (J Infect Chemother 2011, 17; 392-396)、STFX 200mg/日 (J Infect Chemother 2013, 19; 941-945)、AZM 2g/日 (Antibiotics 2014, 3; 109-120, doi:10.3390/antibiotics3020109) の有効性について結果をまとめています。さらに、核酸増幅法を用いた性感染症原因微生物の診断に関する研究も同時に進めています。また、男性の無症候性HPV感染、尿道炎とHPVの関連、女性パートナーが性器クラミジア感染症と診断された男性パートナーの感染率など幅広く研究を行っています。
臨床研究としての尿路感染?その他としては、重症尿路感染症に対する抗菌薬の有効性の検討、前立腺生検後の急性細菌性前立腺炎予防法の確立などに関する研究を進めています。これらの臨床研究に関しては、桧山佳樹、上原央久、市原浩司、橋本次朗、そして、私が関連病院と協力しながら行っています。
多施設共同研究としては、UTI共同研究会への参加により共同研究の一端を担っています。また、日本化学療法学会抗菌薬適正使用生涯教育ビデオセミナーの開催など学会主催の行事?講習会?セミナーなどへも積極的に参加しています。
我々感染症チームの目的は、泌尿器科医が知りたい感染症の適切な診断?治療に関する疑問点を明らかにすることであり、臨床に即した研究を心がけています。
性機能障害
札幌医科大学泌尿器科では、男性の性機能障害に対する治療を積極的に行っております。専門外来も開設し、長い歴史があります。また、研究の分野でも臨床研究のみならず、基礎的研究もおこなっており国内外より高い評価を受けております。
治療の分野では、勃起障害や射精障害などの男性性機能障害、またマスコミなどで「男性更年期障害」として紹介される加齢男性性腺機能低下症候群など、多くの患者さんが専門外来で治療をされております。勃起障害は、バイアグラなどのPDE5阻害剤による内服治療が広く知られておりますが、PDE5阻害剤治療が効かない人やPDE5阻害剤が使用できない人に対する治療もおこなっております。
近年、前立腺癌の患者さんが増えておりますが、その根治治療の一つに外科手術があります。当科でもロボット支援手術も導入されており、術後の勃起障害をなるべく少なくするように機能温存を図る手術も行っておりますが、それでも勃起障害がおこる頻度は少なくありません。そのような術後の勃起障害に対して、当科では治療のみならず、患者さんの術後の生活の質の臨床研究を行っており、その解明にも取り組んでおります。それにつながるように基礎的研究では、神経再生の研究も行っております。臨床?基礎両方の研究がつながり、患者さんのより早期に術後の生活の質の改善が得られるように取り組んでおります。
前立腺肥大症?排尿障害
札幌医科大学泌尿器科の専門分野のひとつに前立腺肥大症と排尿障害があります。
前立腺は50歳前後から大きくなることが知られており、高齢男性の排尿障害の原因の一つとなっております。日本では1990年代まで、日本人男性の年代別の前立腺の大きさや、前立腺肥大を有する高齢男性の割合、そしてどのような症状を有しているのかなどに関する疫学データが不足しておりました。そこで、当教室ではこれらの疑問を解決すべく、前立腺肥大症と排尿障害に関する疫学研究を行い、高い評価を得ております。また、15年という長期間の経過を追うことで、どのような男性の前立腺が大きくなるかなどを明らかにし、世界的にも数少ない貴重な研究成果を発表しております。このようにマクロの視点で前立腺肥大症を研究する一方、前立腺を増大させるメカニズムについての基礎実験を行い、ミクロの視点からも前立腺肥大症の解明に取り組んでおります。
実臨床においても、より良い治療をめざし研究を行っております。近年、前立腺肥大症や「我慢することが困難な強い尿意」を主訴とする過活動膀胱と呼ばれる症状症候群に対する治療薬が次々と登場しております。当科では、これらの薬物を用いより効率的な投与方法や併用療法についての研究を行い、多くの患者さんの症状の改善に寄与できるよう努力しております。