教授挨拶
教授 舛森 直哉
私は、1988年に本学を卒業後 (35期)、熊本悦明名誉教授が当時主催していた泌尿器科学講座に入局し、以後約3年間の国外留学期間を除いて一貫して泌尿器科医として臨床、教育、研究業務に携わってきました。2013年8月1日付けで、塚本泰司名誉教授の後任として第6代の札幌医科大学医学部泌尿器科学講座教授を拝命しています。
当時泌尿器科を選択した理由を思い起こしてみますと、高齢者人口の増加が予測されたため、高齢者を多く扱う泌尿器科に入っておけば食いっぱぐれることはないだろうとの、はなはだ世俗的なものでした。しかし、実際に働いてみますと、内科的側面と外科的側面を併せ持ち、予防、診断、治療、治療後経過観察、時に終末期までの一連の医療行為に携わることができる泌尿器科の魅力にすっかり取りつかれてしまいました。また、多臓器 (副腎、腎臓、尿管、膀胱、前立腺、尿道、精巣、陰茎、後腹膜)の、多様な (切除、摘除、再建)、多岐にわたる (開放、内視鏡、腹腔鏡、ロボット支援)泌尿器科の手術手技が自分の性分に合っていたと思います。
泌尿器科が扱う疾患は、尿路性器腫瘍、排尿障害、尿路結石、尿路性器感染症、副腎などの内分泌疾患、男性不妊症、性機能障害、腎移植、など広範囲にわたります。手術療法や放射線療法の進歩、分子標的薬、抗がん剤、ホルモン製剤、免疫チェックポイント阻害薬などの薬物療法の進歩により、尿路性器腫瘍診断後の予後は明らかに改善しています。したがって、担がん患者といえどもこれまで以上に生活の質 (QOL)が重要視される時代になってきています。泌尿器科の手術に関しては、泌尿器科がんに対するロボット支援下手術やウロリフト?Rezumなどの新たなコンセプトの前立腺肥大症手術の導入?普及により、更なる低侵襲化が進んでいます。泌尿器科の手術は、切除?摘除と合わせて再建が同時に必要な手技が数多くあります。例えば、膀胱がんで膀胱を全摘しますと新しい尿の通り道が必要ですが、小腸を細工して袋状にすることで新しい膀胱の作成が可能です。本来持っている機能をできるだけ維持したり、機能を代用する再建術を得意とするのが泌尿器科の手術の特徴と言えます。性別不合(以前の性同一性障害)に対する性別適合手術、すなわちトランスジェンダー女性では、陰核になる部分を残して陰茎と精巣を切除、前立腺と直腸の間に間隙を作成して造膣と外陰形成を行うとの方法は、まさに切除と再建がセットになった泌尿器科らしい手術と言えます。当科では2003年から性別適合手術が施行可能なシステムを構築し、本邦における中核施設として機能しています。
高度な診療を行うにあたっては医師の教育が非常に重要です。知識や技術の習得や維持?向上は医師に要求される条件の最低ラインですが、医師が考える最高の医療と患者にとっての最善の医療は必ずしも一致するとは限りません。医療の合理化や効率化を目的とした場合、医師?患者間の良好な関係を築くことは今まで以上に難しくなる可能性がありますが、「良き医師とは何か」との問いを常に心に留めて、時代は変わっても「患者のための臨床医」との姿勢を見失わないことが大切です。独善に陥らず、傲慢になることなく、患者の視点で診療に臨む基本姿勢を忘れないような医師を引き続き育成していきたいと思います。また、最近、泌尿器科を目指す医師の4人に1人が女性です。医師の働き方改革とも相まって、DEI (ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)を考慮した職場環境を構築するためには、臓器?疾患?手術手技に関して多様な背景を有する泌尿器科との土壌は最適ではないかと確信しています。今後とも、何卒よろしくお願いいたします。